解説・評論

正しい「新常態」の理解

新型コロナウィルス感染症対策専門家会議が提言した「新しい生活様式」では、マスク着用、手洗い・うがい、こまめな換気、「3密」の回避などが推奨されている。至極もっともなことばかりであるが、感染を恐れるあまりいたずらに不安を煽る報道や行き過ぎた活動自粛の動きも目に付く。新型コロナ禍が長期に及ぶであろうことを考えると国民生活が今以上に窮屈になることは避けなければならない。

そもそも感染症対策の王道は「隔離」であることは論を待たない。14世紀の中世ヨーロッパで猖獗を極めたペストの流行時に、ある男がペストの伝染を強く信じていたので、自分の全財産を注ぎ込んで、食物を買い貯蔵し、多くの住民を一箇所に集めて、壁をめぐらしてその中に隔離し、外界から完全に隔絶させたところ、その町の他の住民はペストによってほとんど死に絶えてしまったにもかかわらず、その囲いのなかの人々は、誰一人としてペストに罹患したものがなかったという(木村尚三郎「苦難の時代」)。問題なのは、14世紀とは比べものにならない程、人の活動範囲と手段が複雑高度化し、世界各国が密着不可分に連関している現在において、このようなことが我々に可能なのかということである。人は感染症予防のために生きているのではない。家庭生活を営み、継続的な経済活動によって社会に貢献する存在なのである。

今年5月から10月末までの半年間の欧米先進13か国の罹患状況を観察すると、顕著な動きがみられる。それは感染者数は大きく増加しているが、13か国平均の死亡率(感染者数に対する死者の割合)が大きく下落していることである。5月2日時点では、死亡率が9.93%(日本は3.34%)であったが、10月末では3.07%(日本は1.75%)と1/3以下となっている。これは検査が普及し、発病していない感染者を補足するようになったことと、医療体制の充実が大きな理由と思われ、今後とも低落傾向が期待できる。こうしてみると、新型コロナは予防と治療には未だ特効薬はないものの、感染しても一定の対処が可能となっていると言えよう。ちなみに日本の新型コロナによる死亡者数は10月末で1,756人とされるが、厚生労働省の人口動態統計では、2018年のインフルエンザによる死亡者は3,325人である。また、昨年1月にはインフルエンザで1,685人の死者を記録している。本来なら国はインフルエンザ対策にもっと力を注ぐべきであろう。

リスク管理論に「イシューマイオピア」という概念がある、目先のことに捉われて本来なすべき大きな課題を見逃すことをいう。新型コロナは決して軽い問題ではない。しかし、人の生活を過度に抑圧して、予防に狂奔するのも正しい姿勢とは言えない。日々の感染者数の増加ばかりに目を向けず、新型コロナの実態を多方面から冷静に観察し対応することが必要であろう。これを再確認した上で「新常態」に取り組みたい。

関連記事

ページ上部へ戻る