解説・評論

【世相診断】災難は忘れたころにやってくる

10 月12 日に東京電力による都心部大規模停電は、長らく停電という事象を忘れていた我々を驚かしました。電気による恩恵が想像もつかない程拡大している現代社会では停電が、交通信号、エレベーター、病院の設備機器、ショップのレジ機器を止めるなど社会の機能をマヒさせる大きなリスクになっています。
今回の停電の原因は、埼玉県の地下送電線の火災によるもので、35 年交換していなかった送電線の劣化による漏電が出火原因です。東京電力によれば、同タイプ(電線の回りを絶縁のため油を含ませた紙で何重にも巻いている)の送電線は現在約1500km 分使われており、そのうち約7 割の約1000km 分は設置から35 年経過しているとのことです。

これを聞いて、中央高速道路の笹子トンネル天井板落下事故を思い出します。ここも建設後35 年たってからの事故でした。9 人もの死者を出したのですが、どういうわけか事故まで12 年間同トンネルの詳細点検をしていませんでした。いずれも古いものに対する根拠のない安心感が事故の底流にあるように思います。

あらゆる技術は時と共に陳腐化します。最初はその技術のメリットとデメリットも分かった技術者が存在し、点検や修理に同行したりアドバイスを行いますが、それらの人たちが次第に退職等で職場を去り、またそれに代わる新しい技術が生まれると、古いものが顧みられなく傾向があります。そうすると、点検も形式的なものになり、進行するリスクが的確に捉えられなくなります。

“災難は忘れたころにやってくる” という格言は、こういう通弊を言い表しているようです。リスクは時と共に変化するというリスク管理の大前提を忘れないようにしたいものです。
(井上 泉)

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